「奇譚クラブ」を偲ぶ。
- 2006/05/09
- 02:34
「奇譚クラブ」は戦後間もない昭和21年に創刊され、昭和50年に休刊するまでの間、日本のSM文化の一翼を担った伝説の雑誌です。団鬼六、千草忠夫、沼正三といった大作家を生み、他にも喜多玲子、春川ナオミ、小妻容子ら、多くのSM画家がここから生まれています。
扱う題材もオーソドックスな緊縛だけに止まらずホモ、レズ、切腹、妊婦、ラバー愛好、はてはコルセット、眼帯フェチなど多岐に渡り、まさに「フェチの百貨店」といった様相を呈していました。これは、当初普通の風俗誌であった同誌をSM誌へと方向転換させた編集部の須磨利之(喜多玲子・美濃村晃は彼のPN)の先見性に他なりません。戦後の性風俗文化史を語る上でこの雑誌を避けて通ることは決してできないでしょう。
筆者も最近、研究のため古本で探して読んでいます。入手した本にざっと目を通しただけなのでまだ十分とは言い難いのですが、現時点でのざっくりとした印象を書いておきましょう。
登場するふんどしネタは切腹物、海女物、下着物といくつかありますが、やはり一番盛り上がったのは女相撲関係です。「女斗美」という言葉を生んだ第一人者・奮斗士好太による「女相撲物語 花の女斗美たち」や、海野三津男の「娘相撲物語」等の名作が生まれています。昭和30年代後半~40年代前半にかけてが大きなピークだったようですね。以前取り上げた「徳川女系図」(1968)の公開とも無関係ではないように思います。編集部が製作販売していた通販用写真セットにも女相撲物が各種ありました。
で、今回取り上げるのは、その「奇譚クラブ」関連の文庫本です。左上は、数々のSM誌に関わり、緊縛師としても名高い濡木痴夢男が書いた本。「奇譚クラブ」誌上を華麗に彩った挿絵画家についての評論や解説がメインですが、関係者ならではの裏話がかなり面白いです。モノクロながら女相撲の挿絵が見られるのがいいですね。
そして右上はSM小説家の北原童夢が書いた解説本。緊縛モデルの早乙女宏美との共著です。全体にサラリと俯瞰的に書かれているので、「奇譚クラブ」という雑誌のユニークさがよく伝わると思います。ちゃんと女相撲マニアの話も出てきます。
左下は、濡木痴夢男が自らの主催する緊縛美研究会でのエピソードを交えて緊縛の魅力を語る本。登場したモデル嬢の中にはふんどしを締められることで羞恥心をかき立てられ、激しく興奮する女性がいるという話が大変興味深いですね。
次は巨匠が描く、須磨利之も師事した伝説の責め絵師・伊藤晴雨の生涯。竹中直人主演「およう」というタイトルで映画化もされています。どこか滑稽で物悲しくほろ苦いユーモアがあり、晴雨に託した団鬼六の思想がうかがえるラストシーンも味わい深く、読後にじわりと感動します。もちろん女相撲も登場。続編もあって、こちらもかなり面白いですよ。
そして最後は同じく鬼六先生のエッセイ集。この本は以前ふれましたが、「女とふんどし」というエッセイが収録されています。
今回いろいろ調べてみて、あらためて緊縛やフェチの世界の深遠さを感じました。参考にさせていただいたココやココやココといったサイトも一様にクオリティが高くて素晴らしいです。内容のディープさもさることながら、集う常連さん達も年配の方が多いせいでしょうか、心配りやマナーの部分にも感心させられました。
上記サイトの研究や創作物の成熟度に較べれば、筆者の研究などまだまだひよっ子です。ふんどしファンというのは、この手の世界の中でもさらにマイナーな、緊縛系やキャットファイト系マニアの一変種でしかないのかもしれません。
こういうジャンルはなまじ下半身に直結しているだけに「自分が抜ければOK」という態度で好みから外れるものを切り捨てがちですが、そればかりではジャンルとしての成熟はありえないと思います。「森羅万象、素直な興味を持ち続けることこそが通の道への近道なのです!」 …と、かの遠藤賢司も言っております。
昨今ようやく再び「ふんどしブーム」と言われるようになりましたが、この状況に満足せず、ふんどしがさらに市民権を得られるよう努力していきたいと思います。
扱う題材もオーソドックスな緊縛だけに止まらずホモ、レズ、切腹、妊婦、ラバー愛好、はてはコルセット、眼帯フェチなど多岐に渡り、まさに「フェチの百貨店」といった様相を呈していました。これは、当初普通の風俗誌であった同誌をSM誌へと方向転換させた編集部の須磨利之(喜多玲子・美濃村晃は彼のPN)の先見性に他なりません。戦後の性風俗文化史を語る上でこの雑誌を避けて通ることは決してできないでしょう。
筆者も最近、研究のため古本で探して読んでいます。入手した本にざっと目を通しただけなのでまだ十分とは言い難いのですが、現時点でのざっくりとした印象を書いておきましょう。
登場するふんどしネタは切腹物、海女物、下着物といくつかありますが、やはり一番盛り上がったのは女相撲関係です。「女斗美」という言葉を生んだ第一人者・奮斗士好太による「女相撲物語 花の女斗美たち」や、海野三津男の「娘相撲物語」等の名作が生まれています。昭和30年代後半~40年代前半にかけてが大きなピークだったようですね。以前取り上げた「徳川女系図」(1968)の公開とも無関係ではないように思います。編集部が製作販売していた通販用写真セットにも女相撲物が各種ありました。
で、今回取り上げるのは、その「奇譚クラブ」関連の文庫本です。左上は、数々のSM誌に関わり、緊縛師としても名高い濡木痴夢男が書いた本。「奇譚クラブ」誌上を華麗に彩った挿絵画家についての評論や解説がメインですが、関係者ならではの裏話がかなり面白いです。モノクロながら女相撲の挿絵が見られるのがいいですね。
そして右上はSM小説家の北原童夢が書いた解説本。緊縛モデルの早乙女宏美との共著です。全体にサラリと俯瞰的に書かれているので、「奇譚クラブ」という雑誌のユニークさがよく伝わると思います。ちゃんと女相撲マニアの話も出てきます。
左下は、濡木痴夢男が自らの主催する緊縛美研究会でのエピソードを交えて緊縛の魅力を語る本。登場したモデル嬢の中にはふんどしを締められることで羞恥心をかき立てられ、激しく興奮する女性がいるという話が大変興味深いですね。
次は巨匠が描く、須磨利之も師事した伝説の責め絵師・伊藤晴雨の生涯。竹中直人主演「およう」というタイトルで映画化もされています。どこか滑稽で物悲しくほろ苦いユーモアがあり、晴雨に託した団鬼六の思想がうかがえるラストシーンも味わい深く、読後にじわりと感動します。もちろん女相撲も登場。続編もあって、こちらもかなり面白いですよ。
そして最後は同じく鬼六先生のエッセイ集。この本は以前ふれましたが、「女とふんどし」というエッセイが収録されています。
今回いろいろ調べてみて、あらためて緊縛やフェチの世界の深遠さを感じました。参考にさせていただいたココやココやココといったサイトも一様にクオリティが高くて素晴らしいです。内容のディープさもさることながら、集う常連さん達も年配の方が多いせいでしょうか、心配りやマナーの部分にも感心させられました。
上記サイトの研究や創作物の成熟度に較べれば、筆者の研究などまだまだひよっ子です。ふんどしファンというのは、この手の世界の中でもさらにマイナーな、緊縛系やキャットファイト系マニアの一変種でしかないのかもしれません。
こういうジャンルはなまじ下半身に直結しているだけに「自分が抜ければOK」という態度で好みから外れるものを切り捨てがちですが、そればかりではジャンルとしての成熟はありえないと思います。「森羅万象、素直な興味を持ち続けることこそが通の道への近道なのです!」 …と、かの遠藤賢司も言っております。
昨今ようやく再び「ふんどしブーム」と言われるようになりましたが、この状況に満足せず、ふんどしがさらに市民権を得られるよう努力していきたいと思います。